お酒を飲んだあと、タクシーに乗車した際に気分が悪くなったことはありませんか?
忘年会シーズンでは、酔い潰れて、周囲の方が介抱している状況を時折見かけます。
私は幸いにも嘔吐されて車内を汚されたことはありませんが、ビニール袋に吐かれたことは何度もありますし、精算して降車されたと同時に外で吐かれたこともありました。
お年寄りに大小問わず失禁をされたことは、何度かあります。
嘔吐や失禁で車内を汚してしまったら、利用客は損害賠償として余分にお金を支払わないといけないのでしょうか?
そこで今回は、「タクシーで嘔吐し、車内を汚してしまったとき」全般について解説します。
この記事に書いてあること
✅タクシーで失禁や嘔吐で車内を汚したとき、賠償請求されるのか?法的・実状はどうなのか?
などを中心に、現役ドライバーが解説しています。
タクシーで嘔吐される前に乗務員がすること
当然ですが、嘔吐して車内を汚されるのが、乗務員は最も嫌います。
よって、気分が悪く嘔吐しそうなお客様に対しては、
- 「大丈夫ですか?ビニール袋持っていますか?」
- 「気分が悪くなったら言って下さいね。すぐ停めますので」
- 「窓開けてもらっても構いませんので」
などと、声かけをして注意を払います。
介抱してくれるお連れ様がいるときはあまり心配しませんが、ひとりで乗車されるときは要注意です。
よくあるのが、お連れ様がいて本人が「気持ち悪い」と言っているのに、無理してタクシーに乗せて帰ろうとする方も多く、この場合、経験上まず嘔吐するのは間違いないと断言してもいいでしょう。
そのような方には、管理人は乗車されても「もう少し休んでから呼んで下さい、乗って下さい」と言って、降車してもらうことを薦めています。
また、気持ち悪かったり吐く寸前なら、どこかのトイレとか、間に合わなければ道端の排水溝や空き地等、できる限り場所を選んで吐いてしまったほうが回復するのも速く、お連れの方はタクシーに乗車する前に、どこかで嘔吐させるようにした方がいいと思います。
タクシーに乗車すると発生する「旅客運送契約」
法的には、タクシーに乗車後、目的地を告げて乗務員が承諾すると「旅客運送契約」が成立します。
そして、乗務員と乗客には次の義務が生じることになります。
乗務員に生じる義務:安全に乗客を目的地へ運送する
道路状況に基づき、最善のルートを選択した上で、安全に乗客を目的地へ運送する義務を負う。
乗客に生じる義務:善良なる管理者としての注意義務に基づき、既定の運賃を支払う
善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)に基づいて、車両(座席)に乗車するとともに、降車の際に既定の運賃を支払う義務を負う。
このように法的にはタクシーに乗車後、目的地を告げて乗務員が承諾すると「旅客運送契約」が成立し、乗務員・乗客がそれぞれ義務を負うことになります。
タクシーで吐く行為は「善管注意義務違反」
「旅客運送契約」が成立した上で、嘔吐したことにより車内を汚した場合、この契約が債務不履行 (善管注意義務違反)となり、これに基づく損害について、乗務員またはタクシー会社は、賠償請求ができることになります。
後日賠償請求されるのか?いくらが相場か?
車内を汚した場合は、一般的には「1~3万円」程度請求されてもおかしくありません。
ただ、前述したように厳密に言えば、法律違反であり「違法行為」ですが、状況やお客様の態度、タクシー会社の方針等もあるので、実際に賠償請求されるかどうかは一概には言えません。
但し、個人タクシーの場合は「個人事業主」なので、賠償請求をされる可能性が高くなる傾向にあります。
そのお客様の免許証など身分を証明できるものを提示していただくなどして、後日、話し合いで解決していくことになります。
法外な賠償請求をされたら法的には断っても問題はありませんが、「迷惑料」と合わせて「休業補償」も合わせて賠償請求されるケースもあるようです。
タクシー会社によって対応が異なる
嘔吐されて車内を汚されても、会社によって対応が異なるのが実状です。
私の所属する会社では、失禁や嘔吐で車内を汚された場合は、運賃以上の請求は差し控えることになっています。
要は泣き寝入りを余儀なくされるということです。
もちろん、お客様から善意で規定運賃とは別に余分に支払うと言っていただき、それを受け取ることに問題はありません。
乗務員次第です。
嘔吐して車内を汚されたら会社(車庫)へ戻って掃除
車内を汚されたときは、吐しゃ物を除去して徹底的に掃除をして、消臭スプレーを多量に噴霧して、臭いも完全に取り除かなければなりません。シートカバーも全て取り替えます。
つまり営業停止に追い込まれます。
掃除後に、自分のその日の勤務時間が残りどれくらいあるかにもよりますが、心も折れてやる気がなくなってしまいます。
ちなみに車両によっては、掃除しやすく臭いも除去しやすい車両と、逆に掃除しにくく臭いも除去しづらい車両があります。
掃除がしやすい車両:内装が撥水性のある素材
タクシー専用車種のトヨタクラウンコンフォートやJPNタクシーは、元々掃除がしやすいような内装に設えてあります。
シートも嘔吐や排尿・脱糞されたときに、掃除がしやすいような撥水性のある素材のため、臭いも取れやすくなっています。
掃除がしにくい車両:内装がモケット(毛織物)
タクシー専用車種の上級仕様車で、クラウンスーパーデラックス/スーパーサルーンは、内装やシートが市販車同様のモケット(毛織物)のため、掃除がしにくく臭いが取れにくいため、上記の車両より難儀します。
また、一般の市販車をタクシー車両として使用しているケースも同様です。
消臭スプレーを多量に噴霧し、換気を行っても臭いは残りやすいです。
また、大手のタクシー会社では、シートや備品のスペアを備えているところもあり、交換して対処することもあるようです。
タクシー乗車前に「気分が悪く嘔吐するかもしれない」と思ったら・・・
タクシーに乗車する前に気分が悪く、吐きそうな感じがしたときは、
- 乗車直後に遠慮せずに申し出る。
- 予め乗車する前に、トイレや側溝・道端でもいいので嘔吐しておく。
- 乗り物酔いしやすい方は、助手席に乗せてほしいと言う。
乗務員の対応として、
- いつでもクルマを停める準備をしつつ、スピードも控えめになるべく後席にGのかかりにくい運転をします。
- ビニール袋をお持ちでない場合、乗務員が手渡します。
気分が悪いことを隠されるより、予め告白してしまった方が好感も持てますし、ありがたいです。
タクシーで子供が嘔吐して車内を汚したら・・・?
昼間よりも夜間に多いのですが、子供の体調不良で親御さんが病院に連れていくときにタクシーを利用されるケースがあります。
こういうケースでは親御さんが事前に、「子供が調子が悪くて病院へ連れていく」と乗務員に正直に打ち明けるのが一番です。
乗務員も、乗車された際に様子を見れば察しはつきますが、先述したように「ビニール袋の準備・普段より運転に気を遣う」ことを意識します。
また、嘔吐してしまい車内を汚したら、親御さんがついているとはいえ子供ですし、言うに言えないのが大半の乗務員の心境ではないかと思います。
もちろん乗務員も十人十色ですので、ブツブツ文句を言う人もいるかもしれません。
このケースの対応策としては、お詫びをして「少し余分に支払い、細かい釣銭は受け取らない」この程度でいいのではないかと思います。
そのときの乗務員の接客態度や反応も観察した上で、領収書を受け取り名前を控えて、後日そのタクシー会社にお詫びの電話を入れて、わからないことがあれば聞けばいいですし、接客態度が悪ければ指摘すればいいと思います。
但し、個人タクシーの場合は、程度や人にもよりますが賠償請求されることもあるかもしれません。
タクシーで嘔吐して逃げるとどうなる?
もしも、タクシーにひとりで乗車して嘔吐してしまい車内を汚したにも関わらず、気付かれていないと思って清算後に黙って逃げた場合、どうなるのでしょうか?
大量に嘔吐した場合は、乗務員はまず気付くでしょうし、少量の場合は気付かないこともあるかもしれませんが、臭いで気付く可能性が高いです。
昨今のタクシーは防犯カメラが設置されていることも多いですし、何より乗務員およびタクシー会社に迷惑をかけているわけですから、たとえ少量の嘔吐でも、精算時まで乗務員が気付かなかったとしても、人として謝罪はすべきだと思います。
少量の嘔吐であれば、乗務員はその場では怒っても、泣き寝入りせざるを得ないのが実際のところではないかと思います。
まとめ:法的には賠償請求可能だが実状は個タクを除き泣寝入りも多い・遠慮せずに申し出る
最後にまとめると、
- 乗務員は、失禁も含めて嘔吐して車内を汚されるのを最も嫌う。
- 法的には嘔吐されて車内を汚したときは、「善管注意義務違反」となり賠償請求されてもやむをえない。
- 実状は、状況や程度・タクシー会社の方針にもよるが、乗務員が泣寝入りすることも多い。
- 都市部に多い個人タクシーは、個人事業主であるため賠償請求される可能性が高い。
- 気分が悪いときは乗務員に遠慮せずに申し出る。
といったところでしょうか。
嘔吐されて車内を汚されると、営業停止に追い込まれ、会社に戻りせっせと掃除をしなければなりません。
他人の汚物や吐しゃ物をひとりで片付けるのは、情けなく惨めな気持ちにもなります。
乗務員の立場から言わせていただくと、乗務員やタクシー会社に多大な迷惑をかけているのですから、既定の運賃より自主的に小額でもお支払いいただくと「まあ仕方ないか・・・」という気持ちにはなります。
泥酔や乗り物酔い、体調不良で嘔吐することも人間としてはありうることですが、「車内を汚したら他人に迷惑をかける」という乗客の意識や自覚で、未然に防げるトラブルです。
お考えいただけたら幸いです。
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