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容疑者Xの献身・原作と映画の違いは?雪山登山の理由も解説!

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映画

2005年に出版された東野圭吾氏の推理小説「容疑者Xの献身」は、3年後にテレビドラマ『ガリレオ』シリーズの劇場版として映画化され、原作は直木賞をはじめ、国内の主要ミステリーランキングでも1位を獲得するなど、秀逸の作品であったことはご承知のとおりです。

映画版においても、原作通りのストーリーが展開されていくのですが、時間的な制約や映像的な見映えを良くするためなど、様々な事情によるものと思われる違いやアレンジが加えられています。

そこで今回は、「容疑者Xの献身」の映画版と原作の違い・異なる点について掘り下げていきます。

この記事を読んでわかること

「容疑者Xの献身」(映画版)において、原作との違いや、原作にはない雪山登山のシーンについても、考察を交えて解説しています。




容疑者Xの献身・原作と映画の違いは?

映画版と原作では、どこが違っているのか?異なる点について、掘り下げていきます。

 

内海薫(柴崎コウ)は登場しない

まずはじめに、映画版ではテレビドラマ「ガリレオ」シリーズの映画化ということで、草薙刑事の後輩新米刑事として、『内海薫』を演じる柴咲コウさんが登場します。

引用元:容疑者Xの献身

まっすぐで正義感があり、がむしゃらに突き進む、コミカルな言動や恋愛要素も織り交ぜつつ、刑事ドラマ定番のバディもの感がある演出をされています。

原作では、基本的には草薙と湯川でストーリーが展開していき、後輩の男性刑事『岸谷』というのが絡んできますが、重要なシーンではなくチラホラ登場する程度に留まっています。

草薙と湯川のやり取りは、内海と湯川のやり取りに置き替わっているといってもいいでしょう。

 

ホームレスに石神は心の中であだ名を付けている

まずは冒頭から。

映画版も原作も、橋の下でホームレスがブルーシートで小屋を建てて生活しているところを、石神が通勤で歩く姿が描かれています。
物語の伏線回収において伏線を張っている重要なシーンですが、ここに出てくる3人のホームレスの内、原作では2人にあだ名を付けています。

1人目:あだ名無し(歯磨きしている男)
2人目:「缶男」(いつも空き缶を叩いてつぶしている)
3人目:「技師」(10日程前からいるがプライドを捨てきれずベンチに腰掛けている)

引用元:容疑者Xの献身

映画版でも石神はチラチラ見つつも無言で通り過ぎているのですが、原作ではホームレスをよく観察していたことが窺えます。

特にこの「技師」は、以前工業系の雑誌を読んでいたことから、建築関係の仕事をしていたことを石神は見抜いており、頭髪や身なりもそれなりに整えていたことからも、職安に行ったり仕事を探しているとみられ、そこにつけ込んで言葉巧みに仕事を依頼すると言って、誘い出すことに成功しています。

ここわた
ここわた

よく観察していたからこそ、死体のすり替えを思い付いたとき、「技師」を利用しようと考えたのでしょう。

弁当屋の名称と経営者が違う

靖子の働く弁当屋は、名称と経営者が異なります。

原作では、弁当屋の名称は「べんてん亭」といい、靖子が以前働いていた錦糸町のクラブの雇われママだった小夜子と旦那の米沢が二人で経営しており、配達員が一人いて、販売担当の靖子と4人で営んでいる。

娘が中学生になりシングルマザーの母親がいつまでも夜の街で働くわけにもいかず、ホステスとして年増にもなってきたことから、去就を考えていたところ、世話になった元ママに誘ってもらい「看板娘」として働くことになったという設定。

引用元:容疑者Xの献身

映画版では、靖子がクラブで働いていた頃貯めたお金で弁当屋を開業し、靖子が店長として経営し、何人か雇っている設定で、弁当屋の名称は娘の名前をとって「みさと」としています。

引用元:容疑者Xの献身

 

石神が靖子に気があることを強調

映画版では、石神が靖子に気があることを、弁当屋での注文の仕方、その弁当を食べているときや彼女と電話BOXから話したあとの柔和な顔付きなど、彼の言動や表情で表現しています。

引用元:容疑者Xの献身

原作では、上記の米沢夫婦が靖子に、石神が彼女の出勤しているときしか弁当を買いに来ないことを見抜き、

「石神は靖子に気がある。何か言ってくるかもしれないわよ」と吹き込むシーンが冒頭から描かれており、隣人および店の常連以上の関係がなくとも、法を犯してまで彼女を守る行動を取っていく、布石を打っています。

彼女も「まさか!?」とは言いつつもまんざらでもなく、石神が自分に気があることを心に留めておくことで、物語が進むにつれ、心の機微や変化、葛藤が細かく表現されていくこととなり、映画版とは異なる作品の深みが、原作にはあります。

ここわた
ここわた

映画版は石神の言動と表情で、原作は周囲の人々や本人の気持ちが文章で綴られており、原作の方は石神が靖子に気があることを、より強く印象付けています。

 

中華料理店での食事シーンは登場人物が入れ替わっている

映画版では、湯川と草薙・内海両刑事の3人が高級そうな中華料理店で食事をして、捜査の進展状況や石神の犯行が決定的と見破った「勤怠表」を湯川がチェックするシーンが描かれています。

引用元:容疑者Xの献身

原作では、石神が出頭する直前の晩に、工藤と花岡親子の3人が中華料理店で食事をしていますが、美里は工藤のことを快く思っておらず、嫌々連れてこられて、その後アパートへタクシーで帰宅します。

このように映画版では、横浜の中華街「四五六菜館」(別館)という実店舗で撮影しており、原作同様に中華料理店での食事シーンがあるものの、そこで登場人物は変更されています。

個人的な見解としては、湯川が石神の勤怠表を見て事件の真相に気付いたときのシーンが、原作通りでは湯川の研究室に草薙刑事一人で訪ねており、映像的に見栄えが地味になってしまうことを避けて、中華料理店の設定だけは原作同様に採用し、登場人物を入れ替えたのかもしれません。

 

石神は柔道部の顧問・異名は「ダルマの石神」

映画版では、大学時代の石神は天才数学者であったことくらいしか触れられていませんが、

原作では、
・高校では柔道部の顧問をしており、最終戸締りは石神の役目。
・柔道をしていた人の特徴である耳は、つぶれてカリフラワーのような形状。
頭髪は薄く、丸顔。
・湯川は大学時代「ダルマの石神」と呼び、がたいのいい風貌をしている。

など、教師以外の特徴が綴られています。

これは花岡親子が富樫を殺してしまったあとに、石神が訪ねていき部屋の中へ招き入れるのですが、富樫の死体を石神が背負って自身の部屋へ運んでおり、死後硬直が始まる前に全裸にしている様子が描かれています。

大の大人の死体を背負って隣の部屋へ運ぶのですから、高校で柔道部の顧問をして、ある程度がたいのいい風貌をイメージさせています。

ここわた
ここわた

映画版では湯川は「ダルマの石神」とは全く言っておらず、石神役の堤さんの風貌と合わないのも、あるかもしれませんね。




死体の第一発見者と遺棄された場所

富樫に見せかけた死体の第一発見者と遺棄された場所は、

  • 映画版:野球のグランドで少年野球の子供達
  • 原作:堤防をジョギング中の75歳の老人

このシーンは原作通りではなく、映画的なアレンジで目撃者を無理なく作れて、死体が発見されやすい場所ということで、「大森スポーツ広場」で撮影されています。

引用元:容疑者Xの献身

ここわた
ここわた

広いところでパトカーを何台も並べると迫力もあり、大きな事件として演出できることも、あるかもしれませんね。

石神が工藤を知るタイミングが異なる

映画版では、石神が湯川を連れて靖子の弁当屋「みさと」へ行ったときに、工藤が初めて靖子を訪ね、親しげに靖子に話しかける工藤に対して、苦渋の顔をする石神が印象的です。

後日、工藤は靖子を食事に誘い、工藤の自家用車「ハリアー」で大雨の中、靖子のアパートまで送り、石神にアパートの階段で目撃されます。

引用元:容疑者Xの献身

原作では、工藤がある日の夕方に弁当屋「べんてん亭」を訪れ、経営者の米沢夫妻とともにクラブ時代の昔話に花を咲かせ、その後工藤と靖子は喫茶店に立ち寄り、タクシーを拾って大雨の中、靖子のアパートまで送り、石神にアパートの階段で目撃されます。

後日、湯川は石神の勤める高校へ夕方に出向き、靖子の弁当屋へ連れて行ってくれと頼み、そこで工藤と鉢合わせするのは、映画版と同じです。

つまり、シチュエーションは同じながら、石神が工藤を知るシーンは順序が映画版と原作では入れ替わっています。

映画版…弁当屋で工藤と鉢合わせし存在を知る ⇒ 工藤の自家用車で送ってもらう靖子を目撃

原作…工藤にタクシーで送ってもらう靖子を目撃 ⇒ 弁当屋で工藤と鉢合わせする

 

美里が映画を観たことを証言する友達の名前

映画版では、美里のクラスメイト「モリノクルミ」というコと、映画が始まる直前に売店で顔を合わせたという証言が取れたと、草薙が湯川の研究室にいた内海に電話していたシーンが描かれていました。

引用元:容疑者Xの献身

原作では、美里の友達の名前は2人出てきます。

最初に出てくるのが「上野美香」というコで、事件が発覚した2日後に、映画を観たことをそのコに話したと、学校に来た刑事に話しています。

そして、もう一人は「タマオカハルカ」というクラスメイトで、事件当日の昼間に、夜に母親と映画に行くという話を聞いていたという証言をしています。

映画版…「モリノクルミ」

原作……「上野美香」「タマオカハルカ」

この時間差で刑事に話すことも、石神の細かな指示によるもので、シチュエーションは映画版と同様です。

ここわた
ここわた

映画版では、友達と売店で偶然会ったことにして、証言者として登場する友達の名も一人にしてわかりやすくしていますね。名前を「モリノクルミ」に変えたのは謎ですが…。

 

湯川が一斗缶で燃やしていたのは「レポート」?

映画版・原作とも、「不要になったレポートを処分しているんだ。シュレッダーは信用できない」と、内海刑事(原作では草薙刑事)が湯川を訪ねた際に、大学構内のベンチに座り一斗缶で何かを燃やしている場面が描かれています。

一斗缶の中で何かが燃えている画の直後に、湯川は腕時計をしっかりと見ていたのは…?

引用元:容疑者Xの献身

映画版では、この「一斗缶」シーンは、単に原作を忠実に再現しただけで、のちに語られることはありませんでした。

原作では、その数日後に湯川が、石神の出勤ルートである橋の下のホームレスがいるところで彼を待ち伏せして、間接的に遠回しに石神の犯行を見破る言い方をするのですが、

  • 犯行現場から一刻も早く立ち去りたいのに、服を燃やしたのはなぜなのか?
  • 服が燃え残っていたのは、なぜなのか?

物理学者である湯川は、「仮説を立てて実証する」性分で、実際にジャンパーや下着も含めて古着を買い一斗缶で燃焼実験をすると、5分もかからずあっという間に燃え尽きたと石神に語っています。

つまり、「一斗缶」のシーンは湯川が腕時計を見て、燃焼時間を気にしている演出で伏線を張っておきながら、ただ単に一斗缶で『レポート』を燃やしているだけのシーンになってしまい、伏線を回収できていませんでした。

これは、映画版では雪山登山のシーンに置き替えられたため、時間の制約的なことも含めて、原作の細かな描写を入れられなかったのではないかと推察します。

ここわた
ここわた

原作を読んでいないと、「一斗缶」のシーンは意味がよくわからないと思います。

 

バカラ賭博のガサ入れシーン

映画版では、富樫がバカラ賭博で多額の借金を抱えて、複数の組関係者から身柄を狙われていたことが発覚し、その方面が彼を殺害した疑いを持ち、現場を押さえるシーンが描かれていました。

引用元:容疑者Xの献身

原作にはないこのシーンを、映画版で入れる理由として推察すると、

  • 湯川の推理では、証拠やアリバイは崩せていないものの、事件の真相に辿り着いており、物語の中盤に捜査が全く見当違いの方向へ進み、対照的な展開を演出し、その後の湯川と石神の絡みを際立たせたかったからでは?
  • ガリレオシリーズ・シーズン1で出演していた、弓削志郎演じる芸人の品川祐さんを出演させ、捜査会議の人数も増やし、ガサ入れシーンを大掛かりにしたかったからでは?

原作は細かい描写が想像を描き立てられる反面、映像にすると地味なところは否めず、映画的な派手な演出がしたかったこともあるかもしれません。

 

石神のレンタカーでの尾行は工藤に気付かれる

石神が工藤の経営している会社をつきとめ、レンタカーを借りて工藤を尾行するシーンが映画版も原作と同様に描かれており、映画版では工藤に気付かれていませんが、原作では運転に不慣れなことや地理に疎いことなどから、工藤に気付かれてしまいます。

また車種は、映画版ではシルバー色のトヨタハリアーですが、原作では緑色のベンツとなっており、品川方面のホテルの地下駐車場に入って行き、工藤のクルマとかなり離れたところに駐車するものの、石神は明らかに工藤に気付かれてしまい、それ以上深追いはしませんでした。

引用元:容疑者Xの献身

そしてそのホテルを出ようとしたとき、歩道にいる靖子の姿を確認し、工藤と会っていることを知ることとなります。

写真に関しては、映画版では二人がホテルのティーラウンジで会っているところを撮っていますが、原作では工藤が会社から出てきたときと、靖子がホテルに入っていくところの2種類撮影しています。

工藤のところに刑事が来て、根掘り葉掘り聴取されて疑われているにも関わらず、映画版では警察でも探偵でもない尾行に関してはド素人の石神に気付かず、ガラス越しの近い距離で写真を撮られても気付かないなど、ありえないでしょう。

引用元:容疑者Xの献身

ただここで石神が、ストーカー化するようなナレーションが入り、インパクトが絶大にあったため、少し無理のある演出もスルーしてまう視聴者の方も多かったのではないでしょうか。

このナレーションは原作と全く同じで、工藤に送りつける手紙の文面として、ハンドルを握りながら考えたものです。

ちなみにロケ地は、東京ドームホテルのラウンジで、石神が工藤の会社所在地を突き止める経緯についても、原作には書かれています。

ここわた
ここわた

ここで「ストーカーに変貌?話し変わってきた?怖い!」ってなりましたね。

靖子は工藤と再会し惹かれていく

映画版では、工藤と靖子のツーショットシーンでは、靖子が戸惑っているような仕草で、「昔とても世話になったから」という理由で、断り切れず仕方なしに会っているような演出にみえます。

引用元:容疑者Xの献身

原作では、何度か会ううちに工藤に惹かれていき、恋心が芽生えて、女として意識していくこととなり、「好きかもしれない」風に描かれています

これは、靖子がクラブ時代に、工藤は常連の客で店外でも食事を共にし、ホテルに誘われても男女の仲にはならなかったものの、当時の夫である富樫のDVや離婚についても相談し、親密な仲であったことが、詳細に書かれています。

ですが、2時間の映画ではその辺りはカットせざるを得ず、工藤が独り相撲を取っている形にしたと、脚本を担当した福田靖さんは映画パンフレットでのインタビューで語っています。

 

靖子が出頭する経緯

ラストシーンの靖子が出頭して、石神と署内で出くわすのは原作と同様ですが、靖子が出頭するに至る経緯が描かれています。

 

湯川が靖子に会って推理した真相を明かす

映画版では、湯川が警察署へ出向き取調室にてカット割り映像により、真相が明らかにされました。

原作では、湯川が靖子の勤め先である弁当屋に出向き、近くの公園のベンチに腰掛け推理した真相を彼女に話すシーンで真相が明かされます。

靖子と美里は、綿密に練られた真相を知らされておらず、富樫の死体のすり替えをするために、罪もないホームレスを殺害したこと。最悪のケース、最後の手段として石神自身がストーカーになり下がって罪を被り、母娘を守ったことなど湯川から知ることとなります。

ここわた
ここわた

映画版ではここまでしか描かれていませんでした。

引用元:容疑者Xの献身

それを聞いた靖子はしばらくその場を動けず、自分の人生を犠牲にしてこれほどまで愛されたことはなかったと、そして帰宅後石神から渡された手紙を再度読み返し、泣き崩れます。

このとき靖子の気持ちは大きく揺らぎ、自分達だけが幸せに生きて行くことなどできないと思ったのでしょう。

そしてこの直後、美里が自殺未遂をしたことを学校から知らされることとなります。

 

美里が自殺未遂

原作では、靖子に気がある工藤を快く思っていない美里は、石神が出頭する直前に、工藤に母娘とも食事に誘われて、美里は嫌々食事についていき、工藤と工藤に気がある靖子の態度にイラつきを隠さず、無愛想な態度を取り続けていました。(中華料理店にて)

かといって映画版のように石神のことを「石神さん」と呼ばず、原作では「おじさん」「あの人」と呼んでいたことからも、石神に対してもさほど好意的ではなかったと思われます。

映画版では、橋の上から美里が「石神さん!行ってきます!」と声をかけるところなど、美里は石神に対してとても好意的に描かれています。

これは、孤独に生きてきた石神にとって、好きな人から名前を呼ばれる喜びや、生き甲斐を感じる大切なシーンとして、西谷弘監督はこだわったそうです。

引用元:容疑者Xの献身

そして原作では、石神の出頭後、自分達母娘のためにストーカーになり下がってまで、守ってもらったことを知り、良心の呵責に耐えきれず、校内でリストカットをし、自殺未遂を図ってしまいます。

最終的に、これが靖子の出頭に至る決定打となったとみられます。

ここわた
ここわた

映画版では、石神の出頭後に草薙・内海とともに靖子の部屋を訪れ、白い封筒の手紙を刑事に見せたときの靖子の複雑な表情と、襖越しに美里が涙していたことで、表現されていますね。

引用元:容疑者Xの献身

 

ラストシーンの靖子が石神に言う最後のセリフ

映画版では、警察署で靖子が石神に言った最後のセリフは、

「あたしたちだけが幸せになるなんて、そんなの無理です。あたしも償います。石神さんと一緒に罰を受けます。」

引用元:容疑者Xの献身

「ごめんなさい」のあと、石神は「どうして…」と大声で泣き崩れます。

引用元:容疑者Xの献身

原作も同様のセリフですが、「石神さんと一緒に罰を受けます。」のあと、

「あたしに出来ることはそれだけです。あなたのために出来ることはそれだけです。」

靖子は両手をつき、頭を床にこすりつけた。

引用元:容疑者Xの献身

と、あります。

この『あなたのために出来ることはそれだけです』という最後の言葉は、上記でも述べたように、石神が靖子に気があり一途に惚れていたからこそ、自分の人生を棒に振ってまで、ストーカーに成り下がってまで靖子と美里を愛し守ってくれたことに対しての、靖子の気持ちが表れていると思います。

映画版では、靖子に対する石神の気持ちがあまり強く表現されていないので、あえてこの言葉はカットしたと思われますが、原作では、その時々の石神の靖子に対する「好き」という心情が綴られており、靖子が石神の気持ちに最後に応えたセリフとして、深みのあるエンディングだったと、個人的には思いました。

ここわた
ここわた

原作の最後のページに綴られているのですが、靖子は工藤ではなく石神の気持ちに応えたこの一言は、ある意味ハッピーエンドで終わった作品かもしれませんね。




容疑者Xの献身・雪山登山の理由を解説

物語も中盤が過ぎて、石神が今回の殺人事件に深く関わっていることを察した湯川は、石神に電話をし直接話したいと申し出るも、石神も勘繰られていることを感じて、山に登らないかと誘われ二人で雪山に登ります。

そもそも原作には雪山登山のシーンはなく、「趣味も特になく数学だけが取り柄だ」と湯川に断言していました。

ではなぜ、雪山登山のシーンを入れたのか?その理由について、映画パンフレットの監督インタビューや作品の流れから考察し、解説していきます。

 

映画的に派手なことをしたい

標記を制作陣が検討していたところ、監督のアイデアで「雪山」というワードが出たことがきっかけで、湯川が石神に疑いの目を向けていることに気付いている状況で、石神が湯川を殺すことが可能な緊迫したシーンを入れています。

引用元:容疑者Xの献身

急に山登りというのは不自然なので、石神の部屋で二人で飲んでいるシーンで、カレンダーやポスターに目を向け、「山登りは数学に似ている。頂上は一つ。そこに行き着く何通りもの方法が、最もシンプルで合理的なルートを見つけ出す」というセリフで伏線を張っています。

 

雪山で湯川が殺されるかもしれない緊迫感を演出

「もしかして湯川は、石神に事故に見せかけて殺される!?」とサスペンス要素を加えて、原作にはないスリルやドキドキ感を描いており、内海が湯川の携帯電話に電話しても通じなかったり、石神がストーカー化していくシーンをカット割りで挟み、BGMも効果的に演出しています。

引用元:容疑者Xの献身

どうみても石神は湯川に殺意は全くないが、「自分が綿密に立てた計画の全貌を、君に暴くことはできない」と言わんばかりの、山小屋での二人のやりとりは、石神が湯川に挑戦状を叩きつけているシーンとしてインパクトを持たせることに成功したのではないでしょうか。

 

「映画版と原作の違い」SNSでの評価

映画版と原作との比較でSNSの評価を見てみると、概ね良好で原作を読んでみて映画版を観ると奥深さが楽しめると、ツイートされている方も多く見受けられます。

一部を紹介していきます。


その通りですね。

ここわた
ここわた

管理人も、上記の方と全く同じで当時映画館に観に行き、それがきっかけで東野氏の作品に興味を持った一人です。

 

まとめ

最後にまとめると、

  • 映画版と原作の違いは10か所以上。

 

  • 原作にはない「雪山登山のシーン」を盛り込んだ理由としては、映像的に派手な見た目と、石神が湯川を殺害するかもしれないという、緊迫感を演出したかったから。

 

  • 原作には、映画版にない奥深さがあり、SNSでも全般的に酷評されている方はあまり見受けられず、評価は良好。

概ね「映画版と原作の違い」については、細かいところを入れればもっとありますが、これくらいでしょうか。

基本的には、原作通りのストーリーが展開されていきますが、どうしても時間の制約があるため、原作の細かい描写はカットされているのは仕方がないところです。

原作ファンを裏切ることなく、映像的に派手な雪山シーンでのサスペンス感も盛り込まれ、また、全てといってもいい演者の芝居スキルが圧倒的に高く、特にこの作品の重要な人物「花岡靖子」演じる松雪泰子さんのその時々の心情を現した演技は、とても素晴らしかったです。

映画版を観た上で、原作を読むと作品の深みがあり、面白さが一層感じられると思います。

映画版に感銘を受けて原作を読まれていない方は、新刊・中古本・図書館で借りるなど、一度通読されることをおすすめします(^^)

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