タクシーに手を挙げて停めようとしたりするときなどで、その車両の助手席前にある表示板(スーパーサイン)が「回送」表示になっていることを見かけたことはありませんか?
電車やバスでも、乗客を乗せずに目的地まで送り直すことを「回送」と呼び、車両前面に表示されるのは、ご承知の通りですが、タクシーにおいても「回送」表示は存在します。
ではタクシー車両が「回送」表示になっていたときに、乗車することはできないのでしょうか?
そこで今回は、タクシーの「回送」について、現役ドライバーが解説します。
タクシー「回送」の表示灯について
上述したようにタクシーにおいても「回送」表示はあり、その表示で街中を走行していることもあります。
どのようなときに回送にしているのか、詳しく解説します。
表示灯(スーパーサイン)の解説
まず、タクシーには、助手席前に「表示灯」が装着されています。
タクシーの表示灯は、「回送」「予約」「空車」の切り替えは、ドライバーが任意で手動で行うことができるようになっています。
表示灯についての詳細は別記事で解説していますので、こちらをクリックしてください。
横方向に3段階の切り替えスイッチで、左が「回送」、中央が「空車」、右が「予約」となっています。
この写真では、中央の「空車」表示になっています。
タクシーが回送でも乗れる?
では、タクシーが回送表示になっているときは、乗車することができないのでしょうか?
結論としては、主にタクシーに手を挙げて停めようとするときですが、回送表示でも乗車できることもあります。
表示灯の切り替えを忘れている場合
タクシーの表示灯は、「回送」「予約」「空車」の切り替えは、ドライバーが任意で手動で行うため、その切り替えを忘れていることもよくあります。
これは予約表示のときも同様で、例えば無線配車があったときに、車内の了解ボタンを押すと、表示灯が自動的に「予約」または「迎車」表示に切り替わらない会社の車両は、手動で予約表示に切り替えます。
このとき、その無線配車の仕事が終了した時点で、メーターを切り空車状態になったときに、表示灯は予約表示のままなので、それを空車表示に切り替えなけれなならないのを忘れることもよくあります。
乗客を乗せる意思がある場合
つまり、空車でいつでも乗車可能であるときに、誤って予約や回送表示のまま走行していることも多々あります。
このケースでは、乗車したい方が手を挙げれば、停まってくれる可能性はあります。
要するに、乗客を乗せる意思があっても、「回送」表示になっていることもあるということです。
タクシーで回送の意味・理由と乗れない場合は?
タクシーに回送表示があるのは、回送することがあるからですが、どのようなときにドライバーは回送表示するのか?
それは乗客を乗せる意思がないときで、主に2つのケースがあります。
帰庫するとき
その日の業務が終わって会社・営業所に戻るとき、また個人タクシーなら帰宅するときに、回送表示にすることもよくあります。
手を挙げてタクシーを停める習慣のない地方でも、夜間は手を挙げて停めようとする方も少なからずいます。
「私は今から仕事を終えます・帰ります」とアピールするために、回送表示にすることにより、「手を挙げられても停まりませんよ」と表明しています。
労働時間に関しては、お咎めがあまり無かった何十年前と違い、現在は一日または1カ月の労働時間や残業時間が厳密に定められています。
終了時刻を守りたい、勤務時間的にこれ以上乗客を乗せることができない、または帰宅したいときは、意図的に回送表示にしてドライバーは営業所に戻りたいからです。
故障したとき
また、車両走行距離が数十万キロメートルのタクシー車両も多く、出庫後に車両のトラブルが起きることもあります。
エンジン系のトラブルや、車幅灯・ウィンカー・ブレーキランプ等のランプ系の球が切れることもあり、営業所に連絡を入れてから戻らなくてはならないこともあります。
そのようなときは、乗客を乗せることができない、または乗せたくないので、回送表示にすることもあります。
車両整備のとき(一種免許所持の運転)
タクシー車両は年1回の車検、3か月に1回の法定点検、メーター検査が年1回あり、検査機関に出向きます。
車両の整備は、都市部の大手タクシー会社では、自社で整備できるところもありますが、大半は近隣で提携している整備工場へ持ち込むか、取りに来てもらいます。
乗客を乗せなければ、通常のクルマと同様に一種免許で乗れますから、整備工場の整備士さんが運転しても何ら問題はありません。
車両をどこかへ回送する目的ならば、一種免許で運転は可能です。
例えば、整備士さんに法定点検で取りに来てもらうときなどは、タクシードライバーが運転しているわけではないので、回送表示にして走行し、手を挙げられても停まりませんアピールをします。
まとめ:回送は乗客を乗せないとき・利用者は乗れることもある
最後にまとめると、
- タクシーが回送表示にしているのは、意図的に乗客を乗せる意思がないとき。
- 回送表示はドライバーが手動で切り替えるため、空車状態で乗客を乗せることが可能であっても、その切り替えを空車表示へ戻すことを忘れていることもある。
- そのような車両は、利用者が手を挙げれば、停まってくれることもあるかもしれない。
- 利用者がタクシーに手を挙げて、停まらずに素通りし回送表示になっていたら、その車両は諦める。
といったところでしょうか。
余談ですが、以前起業家の堀江貴文氏がタクシーに手を挙げて停めようとしたとき、手を挙げてから空車から回送表示に切り替えられて憤慨したことをSNS上で暴露して、話題になったことがありました。
そのドライバーはそのときどういう状況だったかはわかりませんが、考えられる可能性としては2つあります。
- 仕事を終えて営業所に戻ろうとしていたときに、回送表示にするのを忘れていた。
- 服装で近距離客と咄嗟に勝手に判断して、回送表示に切り替え、別の乗客を拾うことを考えた。
いずれにしても、
「だったら、停車して窓を開けて乗車させることができないことを伝えるべきだ」との意見もありますが、
例えば、停車させると乗せてくれると思われて、事情があって乗せられないなどと言うと、夜中に酒が入っていたりすると、逆ギレされたり車体を蹴られるなどの可能性もあり、面倒なことに巻き込まれたくないので、素通りしようとする心情も、ドライバーとしては理解できます。
特に夜間は、ドライバーが正論を言っても、通用しないことが多々あるからです。
単にドライバーが表示灯の切り替えを忘れていたり、実際に回送や予約・迎車表示で利用者が手を挙げたときに乗車拒否されたと思われて、逆上して一般人でもSNSに上げてドライバーが批判されるということが、近年よくあります。
接客態度に問題のあるドライバーもいますが、タクシーは世間のド底辺の仕事で、客側からみてお客様は神様であり、乗車拒否など許されるべきではないのにどういうことだ!と、根底に思われている方も一定数みえるのは、数年ドライバーをしてきて思うところではあります。
タクシーがつかまらないときは、タクシー会社に電話をするか、スマホアプリで呼びましょう。